FX業者について調べていると、A-book(エーブック)やB-book(ビーブック)という言葉が出てきます。簡単に言えば、顧客の注文を外部の市場や流動性提供先へ流すのか、それとも業者内で受けるのか、という注文処理の違いを説明するための用語です。
ただし、ここで最初に押さえたいのは、A-bookとB-bookは日本の法律上の正式分類ではないという点です。実際の業者は、顧客との契約上は業者自身が相手方になりつつ、リスク管理のために外部へカバー取引を出すことがあります。つまり、「A-bookだから安全」「B-bookだから危険」と単純に分けると、かえって仕組みを見誤ります。
この記事では、A-bookとB-bookの違いを初心者向けに整理し、国内FX・海外FX業者を調べるときに、どの資料のどの言葉を見ればよいかをまとめます。特定の業者の利用、口座開設、取引開始、売買判断を勧めるものではありません。
注意:この記事は、FXやCFDの注文処理方式とリスクを理解するための一般的な解説です。投資助言ではありません。実際に取引を検討する場合は、金融商品取引業の登録有無、契約締結前交付書面、注文執行方針、リスク説明、入出金条件を必ず確認してください。内容は2026年7月21日時点で確認できた公開情報に基づきます。
A-bookとB-bookは「注文の行き先」の違い
A-bookは、顧客の注文やリスクを外部の流動性提供先、インターバンク、他の金融機関などへ流すモデルとして説明されることが多い方式です。業者の主な収益は、スプレッド、取引手数料、マークアップなどになります。
B-bookは、顧客の注文を業者内で約定させ、業者自身が顧客の取引相手になるモデルとして説明されることが多い方式です。顧客が利益を出すと、その未カバー部分については業者側の損失になり得ます。反対に、顧客が損失を出すと、業者側の利益になり得るため、利益相反が問題になりやすい仕組みです。

ここで大事なのは、「顧客との契約上の相手方」と「業者が裏側でどれだけカバー取引を行うか」は別の話だという点です。契約上は業者が相手方でも、業者が外部の金融機関にカバー取引を出してリスクを減らすことがあります。逆に、NDDやECNと説明されていても、すべての注文が1件ずつ外部に完全転送されるとは限りません。
A-bookのメリットと注意点
A-book型の説明でよく出てくるメリットは、顧客と業者の利益相反が比較的小さく見えやすいことです。顧客が勝っても負けても、業者は主に手数料やスプレッドで収益を得るため、顧客に不利な約定をさせる動機が小さいと説明されます。
一方で、A-bookをうたう業者でも、約定価格、スプレッド、スリッページ、リクオート、流動性低下時の約定可否は別問題です。外部に流すから常に有利、という意味ではありません。市場が荒れているときや流動性が薄いときは、外部の価格そのものが悪化します。
また、A-bookやECNという言葉は、業者ごとに使い方が違います。確認するときは、広告の言葉だけでなく、注文執行方針や契約書面にある「誰が取引相手か」「外部流動性提供先へどう注文を流すか」「すべてヘッジするのか、一部だけか」を読む必要があります。
B-bookのメリットと注意点
B-book型は、業者内で注文を受けるため、小口注文の約定が速く見えたり、固定に近いスプレッドを出しやすかったりすることがあります。国内の店頭FXでも、業者が顧客に価格を提示し、顧客と業者が相対で取引する形が一般的です。
ただし、B-book型では利益相反に注意が必要です。顧客の利益がそのまま業者の損失になり得る未カバー部分があると、約定価格、スプレッド、スリッページ、取引制限などへの不安が出やすくなります。
金融先物取引業協会は、店頭FXでは顧客とFX業者が直接取引するため、顧客の利益はそのままでは業者の損失になり、業者は銀行などに同様の注文を行ってリスクをヘッジすると説明しています。ただし、カバー取引の頻度や金額は業者によって異なり、未カバー部分については利益相反関係が残るとも説明しています。
国内FX業者はどう見るか
国内FXを見るときは、A-book/B-bookという俗語よりも、まず「店頭FX」か「取引所FX」かを分けると理解しやすくなります。
| 区分 | 代表例 | 公開資料から読めること | A-book/B-book的な見方 |
|---|---|---|---|
| 国内店頭FX | DMM FX、GMOクリック証券 FXネオ、SBI FXTRADE、楽天FXなど | 顧客と業者の相対取引。各社の説明書では、カバー取引先やカバー取引の扱いが説明されている。 | 契約上は業者が相手方になるため、B-bookまたはマーケットメイク型に近い。ただし、カバー取引により外部へリスク移転する部分がある。 |
| 国内取引所FX | くりっく365 | 取扱会社を通じて東京金融取引所の市場で取引する。複数のマーケットメイカーの提示価格から取引所が価格を提供する。 | A-book/B-bookの二分法ではなく、取引所FXとして別枠で見るのが自然。 |
DMM FXの店頭外国為替証拠金取引説明書では、顧客が行うFX取引は同社との相対取引であり、同社の判断によりカバー取引を行う旨が説明されています。GMOクリック証券のFXネオも、店頭外国為替証拠金取引は同社と顧客との相対取引で、カバー取引先の一覧を公表しています。SBI FXトレードや楽天FXの説明書でも、相対取引やカバー取引先に関する説明を確認できます。
つまり、国内店頭FXを「完全なA-book」と見るのは適切ではありません。一方で、「国内店頭FXは全部ただの呑み業者」と見るのも雑です。日本では金融商品取引業の登録、証拠金規制、ロスカットルール、信託保全、リスク情報の公表など、国内ルールの中で運営されています。見るべきポイントは、相対取引であること、カバー取引の方針、未カバー率、財務状況、スプレッドや約定ルールです。
海外FX業者はどう見るか
海外FXや海外CFD業者では、NDD、STP、ECN、Raw Spread、Market Maker、Principal、Counterpartyなどの言葉が出てきます。ここで混乱しやすいのは、「NDDやECNをうたうこと」と「顧客との契約上、業者が相手方になること」が両立する場合があることです。
| 業者・ブランド例 | 公式資料で確認できる表現 | 読み方 |
|---|---|---|
| XM | 注文ごとに同社がcounterpartyとなり、principalとして行動する旨の注文執行方針がある。オーストラリア向け開示では、OTCデリバティブでmarket maker、not an agentとも説明されている。 | 契約上はB-book/マーケットメーカー型として読むのが自然。ただし、ヘッジ方針やグループ内執行は法人・地域の書面で確認が必要。 |
| IC Markets / IC | ECN pricing model、外部の流動性提供先から価格を得る、no dealing deskと説明しつつ、すべてのポジションを流動性提供先へヘッジするわけではないとも説明している。 | A-book寄り、NDD/ECN型をうたう業者として読める。ただし、顧客との取引相手やヘッジ範囲は書面で確認する必要がある。 |
| Pepperstone | 第三者の流動性提供先へ注文を送る場合がある一方、契約上は同社がsole counterpartyであり、principalとして行動すると説明している。 | STP/NDD的な価格形成を使う場合があっても、顧客との契約上は業者が相手方。完全A-bookとは断定しにくい。 |
| OANDA | 顧客との取引はOTCで、OANDAがcounterpartyとなるprincipal-to-principalの取引だと説明されている。 | 契約上はマーケットメーカー/B-book寄りとして読むのが自然。地域・法人ごとの書面確認が必要。 |
この表は、業者の優劣を示すものではありません。見るべきなのは、「広告では何と呼んでいるか」よりも、契約書面上の相手方、注文執行方針、価格の作り方、ヘッジ方針、規制地域、日本居住者への提供可否です。
初心者が見るべきキーワード
業者の説明書や注文執行方針を読むときは、次の言葉を探すと判断しやすくなります。
- 相対取引 / OTC:取引所を通さず、顧客と業者が直接取引する形です。
- principal:業者が本人として取引相手になるという意味です。agentとは違います。
- counterparty:顧客の取引相手です。ここに業者名が出てくる場合、顧客は外部市場と直接契約しているわけではありません。
- market maker:業者が価格を提示し、取引相手になるモデルです。
- liquidity provider / LP:業者に価格や流動性を提供する外部先です。ただし、LPがあることと、顧客注文が常にLPへ完全転送されることは同じではありません。
- hedge / cover / カバー取引:業者が顧客との取引から生じるリスクを外部取引で減らすことです。
- not hedge each position:すべての注文を1件ずつ外部に流すわけではない、という意味です。
図解例題:この業者はA-bookですか、B-bookですか
例題:ある海外業者の公式ページに「ECN価格」「no dealing desk」「外部の流動性提供先から価格を得る」と書いてあります。一方で、注文執行方針には「当社はprincipalとして行動し、顧客のsole counterpartyである」と書いてあります。この業者はA-bookでしょうか、B-bookでしょうか。
考え方:この場合、「価格形成や注文処理はA-book寄り・NDD寄りと説明されているが、契約上は業者が顧客の取引相手」と読むのが現実的です。完全なA-bookと断定するのではなく、「外部流動性を使うが、顧客との契約は業者が相手方」という二段階で理解します。
例題:国内の店頭FX説明書に「お客様が行うFX取引は当社との相対取引」「当社の判断によりカバー取引を行う」と書いてあります。この業者はどう見ればよいでしょうか。
考え方:契約上は業者が相手方なので、A-book/B-bookの俗語ではB-bookまたはマーケットメイク型に近い構造です。ただし、カバー取引を行っているため、業者がすべてのリスクを内部に抱えているとは限りません。未カバー率、カバー取引先、財務状況、約定ルールを合わせて確認します。
日本居住者は登録有無を最初に確認する
A-bookかB-bookか以前に、日本居住者は金融商品取引業の登録有無を最初に確認する必要があります。金融庁は、外国為替証拠金取引は金融商品取引法の登録を受けた業者でなければ行うことができず、たとえ海外でライセンスを持つ業者であっても、日本で登録を受けずに日本居住者へ金融商品取引を業として行うことは禁止されていると説明しています。
また、金融庁は無登録業者との取引について、登録業者かどうか、警告されていないかを確認するよう案内しています。海外FX業者を調べるときは、A-book/B-bookの噂より先に、日本での登録状況、警告情報、入出金条件、利用規約、トラブル時の相談先を確認しましょう。
よくある勘違い
1つ目は、「A-bookなら必ず安全」という勘違いです。外部に注文を流す方式でも、スプレッド拡大、スリッページ、流動性不足、システム障害、業者の信用リスクは残ります。
2つ目は、「B-bookなら必ず悪質」という勘違いです。相対取引やマーケットメイク型でも、登録、開示、カバー取引、信託保全、リスク管理のもとで運営されている場合があります。問題は、利益相反をどう管理し、どこまで開示しているかです。
3つ目は、「NDDやECNと書いてあれば完全A-book」という勘違いです。業者によっては外部流動性を使いつつ、契約上は自社が顧客の取引相手になる場合があります。
4つ目は、「海外で規制されていれば日本でも同じように安心」という勘違いです。日本居住者向けに金融商品取引を行う場合、日本の登録が問題になります。海外のライセンスや知名度だけでは判断材料として不十分です。
まとめ
A-bookとB-bookは、FX業者の注文処理を理解するための便利な言葉です。ただし、法令上の正式分類ではなく、実際の業者は「顧客との契約上は業者が相手方」「裏側では一部または全部をカバー取引する」という形を取ることがあります。
国内の店頭FXは、基本的に業者と顧客の相対取引として説明されています。一方、くりっく365のような取引所FXは、A-book/B-bookの二分法ではなく、取引所FXとして別に見る方が正確です。海外業者については、NDD、ECN、STPという宣伝表現だけでなく、principal、counterparty、market maker、hedging policyを確認する必要があります。
業者選びで大切なのは、「A-bookかB-bookか」のラベルだけで判断しないことです。登録有無、契約上の相手方、価格の作り方、カバー取引、未カバーリスク、入出金、約定ルールを順番に確認しましょう。
参考情報
- 金融庁:外国為替証拠金取引について
- 金融庁:無登録業者との取引は要注意
- 金融先物取引業協会:店頭FXの配信レートについて
- 東京金融取引所:くりっく365パンフレット
- DMM FX:店頭外国為替証拠金取引説明書
- GMOクリック証券:店頭外国為替証拠金取引説明書
- SBI FXトレード:外国為替証拠金取引の契約締結前交付書面
- 楽天証券:楽天FX取引契約締結前交付書面
- XM:Order Execution Policy
- XM Australia:Regulatory Disclosures
- IC:Help Centre
- Pepperstone:Order Execution Policy
- OANDA:fxTrade Customer Agreement

